「THE OUTSIDER」前田日明代表インタビュー “成長・進化”の2年目総括と3年目への展望
2009年12月28日(月)
前田代表にアウトサイダーの2009年総括と今後の展望を聞いた【スポーツナビ】
前田日明氏の呼びかけで始まった、日本全国の不良たちが集結してケンカ最強を決める総合格闘技イベント「THE OUTSIDER(ジ・アウトサイダー)」。旗揚げから2年目の2009年は、東京・両国国技館「THE OUTSIDER SPECIAL」(3月15日)で開幕し、3大会にわたる大型企画、65-70キロ級トーナメントを大成功で終えた。プロ選手の出場する総合格闘技大会と比べれば、技術レベルで劣るアマチュア大会にもかかわらず、常に満員のファンを魅了するアウトサイダーの原動力とはいったい何なのだろうか?
前田氏は若い世代のアマチュア選手たちが将来の格闘技界に夢を見ることができるように、大会を通してさまざまなメッセージを投げ掛けている。来年には大成功を収めたトーナメント企画の第2弾、60-65キロ級トーナメント開催も予定されている。UWF、HERO’S発足などに携わってきた前田氏は今後、新たな局面を迎えているアウトサイダーをどのような方向へと導いていくのだろうか。前田氏に2009年の総括と来年以降の展望を聞いた。
■「逃げようとする自分をぐっと抑えて戦うことが大事」
前田氏はアマチュア大会の運営はプロとは違う安全管理が必要だと語る【スポーツナビ】
――「THE OUTSIDER 第9戦」では安全管理の苦労はありませんでしたか?
第1回大会からトーナメントという考えがあって、アマチュアはプロとは違う安全管理が必要で、ちゃんとしたトレーニングを10年くらい積んでいる人と、まったく積んでいない人が戦う可能性があるわけです。それでも安全に運営しなければいけない。プロでもレフェリングの問題が話題になっていますけれど、何が危険で何が安全なのかを見極めた上で、自分で育てる選手をプロにしてやろうと思うとパウンドは外せない、パウンドありの大会でアマチュアがやるための安全性とはどういうものなのかを1年くらい考えてきました。毎大会、レフェリーにジャッジの安全性を確認して、議論してきた結果が今大会につながっていると思いますね。
――ひとつの大会でシングルマッチとワンデートーナメントがうまく融合していたように感じました
そうですね、トーナメント制なので選手の回復に時間が必要というのと、25試合がギリギリだと思いますが、試合数が多いのでシングルマッチを多くして同じような試合が固まらないようにしています。
――それでは、印象に残った出場選手についてお聞かせください。第1回大会から出場している菱沼郷選手は負けが続いていましたが、最近は2連勝と好調を維持しています
彼の努力の賜物だろうね。彼は当初リングに上がってダメだと思って逃げてしまうようなところがあったんだけど、それが一番危ないですからね。第1回大会のときに後ろを向いて負けてしまったのが彼も屈辱だったみたいで、一生懸命トレーニングを積んで、ラッキーパンチかもしれないけど(第6戦で)花道にKO勝ちしましたからね。下がらなければ何とかなるんだということだと思います。後ろを向いたらファイティングスリットがあっても何もできないですから。引かずに、逃げようとする自分の気持ちをぐっと抑えて戦うことが大事ですよ。人生も同じじゃないですか。
――第22試合に出場した庵野隆馬選手も華のある選手ですが、大会終盤にラインアップしたのは前田さんの判断だったのでしょうか?
うん。試合のビデオを見なくても裸の写真と顔の雰囲気を見れば、どのくらいできるというのが分かるんですよ。
――シングルマッチでは清水征史郎選手vs.中澤達也選手の一戦も気持ちがぶつかり合ういい内容の試合だったと思います
中澤くんは負けが続いてますけど、負けん気の強さがあって大化けすると思いましたよ。
――ルックスもすごく良いですし、今後が楽しみな選手の一人ですね
■「アウトサイダーの選手たちは勝負所が分かっている」
「THE OUTSIDER第9戦」を振り返って試合を解説する前田氏【スポーツナビ】
――では次に、激闘の続いたトーナメントについてお聞かせください。トーナメントの準決勝では、前田さんが大会後の総括で野村剛史選手が「ああいう負け方をするのは意外だった」と言っていました
野村くんは慌てましたね。途中で三角絞めが極まったと思って、オレはレフェリーに「落ちたんじゃないか」と言ったんだけど、レフェリーが「大丈夫」ということで続行しました。プロの試合だったら止めていたかもしれないですね。あそこでレフェリーが止めなかったので野村くんはどうしようと迷ってしまって佐野くんにやられてしまいましたね。あれが明暗を分けました。佐野くんは試合中の一瞬の判断を冷静に考えながらできる頭の良さがあるので、将来大物になれますよ。
――試合後に野村選手と何か話をしましたか?
いや、してないですね。天下一武闘会(九州で行われているアマチュア格闘技大会)の人に聞くと(野村選手が格闘技を)やめると言っていたんですけど、今後も続けるみたいですね。
――準決勝のもう1試合、武井勇輝選手vs.吉永啓之輔選手も衝撃的な決着でしたけど、前田さんは予想していましたか?
武井くんはけがをしていたんだけど、医者に直談判して無理やり(出場)OKを出させたと思うんですよね。本人にとっては落ち着いて間合いを計ってやろうとしていたと思うんだけど、ロープを背負ってしまったのが彼の一番の失敗だったね。吉永は(武井選手が)ロープを背負ったのを見て一気に飛びひざを出したのがドンピシャだったと。試合はすぐ終わってしまいましたけれど、2人の心理戦がありましたね。でも、もし武井くんが決勝に勝ち進んでも手がもたなかったと思いますよ。
武井くんは以前に少し教えたことがあるんですけど、ワンポイントアドバイスですぐに変わるんですよ。すごいセンスの良さがあるので、今回負けたことで彼もこれから伸びるんじゃないですかね。
――武井選手は打撃一辺倒のイメージでしたけど、最近はタックルもうまいですよね
武井に言ったのは「タックルは駆け引きだよ」と。相手を打ち気にさせておいて、重心が上に行った瞬間に入り込むというのが大事だという話をしましたね。彼はそれを聞いてすぐにできるようになりましたからね。
――飛び込むには勇気も必要ですよね
彼を含めてアウトサイダーの選手たちは勝負所が分かっているんですよね。たとえ玉砕しようとも一気に攻めるという、そこいらへんのプロの選手にはない勘所をよく知っていますね。だから現在のプロの総合格闘技の世界には魔裟斗のようなカリスマがなかなか出てこないんですよ。舟木ヒクソン戦の前座に出ていた、若い頃の魔裟斗の試合を見たときに「日本にもこんなにすごい選手がいるのか」とすごく驚いていたんですよ。当時からすごい力を持っていましたからね。
■「アマチュアの選手層を作るのが大事」
前田氏は若い世代の選手たちの可能性を信じている【スポーツナビ】
――吉永選手vs.佐野選手の試合を見てどのような感想を持ちましたか?
吉永は冷静に、彼が本来得意としているグラウンドで勝負してやろうとしていて、グラウンドに持ち込んで一瞬パウンドになりかけたけど、このままじゃダメだなと作戦を切り替えて打ち合っていましたね。打ち合うとリーチの差や身長差があるから有利に試合が進められて、回転の速い打撃で佐野くんを圧倒していましたね。
――吉永選手は激しい練習を積んできたのが実践で生かされている試合内容でした
アウトサイダーに関わっていると、勝っても負けてももっと強くなってやろうと練習するので街に出れなくなるんですよ。不良を更正させようという意図はないんですけど、自然とまともになってくるんです。どんな世界にいようと、人生で一番大事なことは「必要なときに必要な努力をすること」なんですよ。必要な努力をしなければいけないのに腐ったり落ち込んだり、家に引きこもったりしている場合じゃないよと。この大会に出場すると、そのことを身をもって思い知るんです。
自分たちも主催者として頑張らなければいけないのは、彼らは目立ちたい人たちばかりですから、プロのような興行をやってプロのように注目を集めるために動画やメディアに出す、ここに出ることの意味を選手たちに対して責任を持って示す事ですね。
――アウトサイダーでは負けても次にチャンスが与えられるのが素晴らしいですね
いつ出場させるかが重要ですね。出場を見送っている間に腐っちゃう選手もいるんですけど、大会に出たときに力を発揮できるようにしています。菱沼も復帰戦で花道と戦ったときに、オレは1Rで花道に連打をもらって終わっちゃうんだろうなと思っていたんだけど、勝ちましたからね。花道は花道で菱沼に負けたのが悔しくて、直談判して次に出してくれって言ってきて。
――ところで、前田さんはこれまでUWFやRINGS、HERO’Sなどさまざまな団体を企画され、ユニークなアイディアをたくさん成功させています
HERO’Sでは石井(和義)館長に直々にマッチメーク、選手のスカウトなどをする様に依頼されていましたが、なぜか全くさせてもらえませんでした。その疑問の答えは、いろいろな状況を把握した結果、残念な理由とともに了解しました。
自分を中に入れるとと困ることがあった様です。自分にとっては過去に同じ様な事を経験した事なので館長に同情しましたが、格闘技界に有り勝ちな問題とは思いましたがまさか、K-1にも有るとは。非常に残念ですね。
アウトサイダーでは、トーナメント第1回戦は同じ消耗度になるような同レベルの選手を組んでいます。リングスの時代に総合格闘技の選手層が薄かったし、そこで選手を育てなければいけないと思ってやっていたので、その経験が今に生かされていると思います。
UFCのような巨大の資金力を持った団体が外国人選手を呼んで試合を組んでいると選手が育たないですよ。日本人選手を磨き上げるのと、アマチュアの選手層を作るのが大事なんです。
――前田さんの独創的な発想はどこから生まてくるのでしょうか?
先入観なしでものを見るという訓練をしています。刀鑑定の勉強を10数年やっているんですが、刀を見る前に先入観を持ったら普段では分かることでも違う見方をしてしまうんですよ。先入観がどれだけものを見えなくするかということです。
アウトサイダーの選手たちについても、ワルだとか不良だとか、1回負けたら試合をしなくなるとか、勝ったら格好つけて戻ってこないとか、会場で暴れてルールを守らないと言われるんですが、やってみないと分からないじゃないですか。海外を見渡してみると、ヤンチャ出身の選手が何人いるかということです。海外では刑務所の更正プログラムに格闘技を取り入れていると聞いたことがあります。日本ではゼロじゃないですか。日本はすごい才能を持った層に目をつぶっているんです。将来の総合格闘技界に貢献したいんですよ。
■「日本の総合格闘技界の層を厚くしたい」
前田氏は「新しい才能にどんどん出会いたい」と語った【スポーツナビ】
――では、来年以降のアウトサイダーについてお聞かせください。1年目が誕生、2年目は成熟・進化といった表現がふさわしい発展だったかと思いますが、3年目はどのように考えていますか?
まずは60-65キロ級のトーナメント開催ですね。この層は65-70キロ級の次に層が厚いので。2010年2月にセレクションバウトを開催します。来年は4~5大会を開催する予定で、そのうち1~2大会は大きな会場で行いたいと思っています。
――65-70キロ級では吉永選手が王者になりましたが、防衛戦やトーナメントを開催する予定はありますか?
会議でもいろいろと話し合いましたけど、アウトサイダーは不良の子たちを広く集めることを目的としているので、毎年同階級のトーナメントを行うことも検討しています。
――1回やって解散・封印ではもったいないですもんね。トーナメントの山組みが違えばまったく順位にはならないでしょうし。これまで外国人選手が出場していないのは体重の問題があったからでしょうか?
アウトサイダーはアマチュア選手によるファイトマネーのない大会ですから、それで海外から参戦するのが難しいということです。日本にいる外国人選手は米国軍人などですから司令官の許可が必要です。沖縄の大会では米国軍人vs.日本人選手の対戦が開催されていましたけれど、一般の外国人ではいろいろな問題があって出場するのが難しいですね。米国軍の中にはMMAやボクシングなどのクラブがあって、彼らは軍の大会には出場していますけれど、もしアウトサイダーで日本人選手との対戦が実現したらおもしろいですね。外国人選手の瞬発力を経験することは必要ですから、日本人とは次元が違いますからね。
――今大会で準決勝に出場した選手たちにはプロの試合に向けたプランがあると言っていましたが
リトアニアでプロモーターをしているドナタス(シマネイティス)がベラルーシなど旧ソ連の4カ国で試合を開催していて、そこに日本人選手を呼んでもいいということで、海外遠征で出場させようと思っています。そこで選手たちが勝ったり負けたりすることでレベルが上がっていけばいいですね。もし組むことになったら、彼らにはパンチの打ち方とか基礎から教えたいと思います。
――来年以降の大会ではどのような選手に出てきてほしいですか? 非不良系の選手も数多く出場を望んでいますよね
今のアウトサイダーは不良中心ですけど、非不良系の選手出場も全然気にしてないですよ。不良にリベンジしたいヤツ、不良を更正させたいヤツなど、いろいろな選手に出場してもらいたいです。新しい才能にどんどん出会いたいです。ただ、メーンに考えているのは誰にも見向きもされない人たちですね。日本の総合格闘技界の層を厚くしたいですね。
――前田さんがアウトサイダーのような普通とはちょっと違った総合格闘技の大会を開催するのは使命感を感じておられるからでしょうか?
使命感というか、自分のやったことを後世に残したいですね。途中でつぶれたりしないような、問題点を精査しながら10年、20年と残っていくようなものを作りたいと思います。リングスが活動停止になって選手たちにはかわいそうなことをしましたけれど、ずるずると運営してまったく再生できなくなるまでダメージを受けてやめるより、余力を残してやめた方が良かったんじゃないかと思います。総合格闘技に夢を持っている若い世代の選手たちにチャンスを与えていきたいですね。
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