長谷川2階級制覇!亡き母に捧げる復活星
「WBC世界フェザー級王座決定戦」(26日、名古屋市ガイシプラザ)
オカン、見てくれたか‐。WBCフェザー級王座決定戦で、同級2位の長谷川穂積(29)=真正=が、同級1位のフアンカルロス・ブルゴス(メキシコ)に3‐0の大差で判定勝ちした。WBCバンタム級に続き、国内初となる2階級上げての2階級制覇を達成。10月24日にがんで亡くなった母・裕美子さん(享年55)の遺影がリングサイドで見守る中、強い長谷川が帰ってきた。
◇ ◇
一歩も下がるわけにはいかなかった。体格で上回るブルゴスの圧力を、がむしゃらなパンチで押し返した。天国で観戦する裕美子さんに「強い息子」を見せるため、長谷川は歯を食いしばって前へ、前へと足を進めた。
「強い気持ちを見せたかった。母がいれば、勝てば何でもいいが、今日は(母が)安心できる試合をしたかった」
スピードで圧倒するのは簡単だったはずだ。あえて足を止め、相手の強打に、強打で応戦した。7回にブルゴスの左アッパーをアゴに食らい、腰を落として後方によろめいた。それでも逃げることなくリング中央で迎え撃ち、連打を繰り出し、逆に後退させた。
最後まで正面から打ち合い、大差判定で日本人初の“飛び級”2階級制覇を達成した。勝者コールを受けた長谷川は、腫れあがった顔をくしゃくしゃにして天国の母に呼び掛けた。
「おかん、やったよ。おかんの好きな、きれいなボクシングはできへんかったけど、今日は勝ったことで満足して」‐。
再起戦を1カ月後に控えた10月24日、最愛の母が亡くなった。裕美子さんは息子に、日記で最後のメッセージを送った。「穂積のボクシングが大好き。早く試合が見たいな。本物のボクシングで、たくさんの人を感動させて」。「もし命と変えられるなら、あの子に光を与えてください。私なんかどうでもいいから、あの子にチャンスをください」‐。
この内容を放送した日本テレビのドキュメント番組を、試合前の控室で初めて見た。「ボロボロ泣いちゃって、目が腫れてしまった。でも、逆に気持ちは強くなった」。母の願い通り“本物のボクシング”で王座に返り咲いた。長谷川がパンチを振るうたび、地鳴りのような歓声が上がった。思いのこもったボクシングで、すべての観客の心をも震わせた。
「2階級制覇はおまけ。今日は勝ったことがすべて」と、再び手にしたWBCベルトをいとおしそうに胸に抱いた。今後も戦いは続く。フェザー級は強豪ぞろいだ。「そこに食い込んでいきたい。今は一番低いところにいるが、もっと強くなって…」。長谷川穂積の「第2章」が幕を開けた。
PR